とけないこおり

好きなものへの気持ちを素直に

とむらいのうた

好きな曲の話とかアーティストの話ではないのだが、音楽の話で書きたいことができたから、書く。人間の生老病死の話をこういうところでするのもどうなんだろうと思うが、曲を聴く背景にパーソナルな事情が絡んでくるのは当然のことなので、そういったことも交えながら。

 

大切な人の死と向き合う時、あなたは音楽に頼るだろうか。その音楽とどう出会って、どんな頼り方をしているだろうか。

 

私は身近な人が亡くなる度に、サカナクションの『グッドバイ』という曲を聴いてきた。きっかけは、四人いた祖父母のうちの一人目、母方の祖父が亡くなったときにプレイヤーから流れてきたことにある。

その日は大学3年時の3月1日、就活の解禁日(合同説明会がスタートする日)だった。事前に見回る企業ブースの目星をつけ、大きめの会社の講演会は予約をし、できる準備をして合説会場に向かっていたところ、行きの電車待ちのホームで母から訃報の知らせが入ったのである。

葬儀まで時間はあったので、半ば上の空になりながら説明会で回るところを回って、少し早めに切り上げて実家に帰ることとした。体が弱くなっていると知っていたから、後悔のないように帰省の度に顔を見せ会話をしてきていても、看取ったわけではないから「死」「離別」の実感は対面するまでは湧かなかった。でも湧いてこないからといって当然悲しい気持ちはあって、幼少期に曾祖母を亡くして以来の親族の葬儀であったので、私は不慣れな喪失感に包まれてとても不安定な状態だった。

合説会場から下宿先、下宿先から電車、バスを乗り継いで実家につくまで、私はこの不安定さをわずかにでも解消する必要があった。Googleで「離別 悲しみ 向き合い方」とか「祖父母 亡くなった」とか、世間一般の対処法を一通り調べる。少し落ち着くけれど、それでもおさまりきらない心のざわつき。自分の五感を何かに傾ける必要があると感じて、私はスマホの音楽プレーヤーを立ち上げた。

しかし困ったことに、私の聞くアーティストはものすごく偏っていたので、当然曲の雰囲気も偏っていた。基本的にテンポの速いかっこいい曲や楽しい曲、頑張れっていってくれる曲が好きだったために、普段聞いているプレイリストの曲調や歌詞が全く自分にフィットしないのである。だって極力穏やかになりたいし頑張りたくもないし頑張っても戻ってこないものと向き合うために曲を聴くのだから。

とはいえ今のようにSpotifyなどのサブスクも普及していない頃なので曲をあさることもできない。どうしたものかと思いながら、普段きまった曲しか聴いていなかったアーティストのアルバム曲を片っ端から聞いていくことにして、冒頭紹介した『グッドバイ』で手が止まったのである。

サカナクション - グッドバイ (MUSIC VIDEO) - YouTube

離別に関する曲として思い浮かべる有名な曲には『千の風になって』『涙そうそう』『花束を君に』なんかがあって、これらは比較的はっきりと「死」や「その後残された者たちの向き合いかた」にフォーカスをあてて歌っている。

一方でこの曲、タイトルでもサビでも『グッドバイ』と伝えてくるけれど、歌詞自体に死が織り込まれているわけではなく、あらゆる別れや区切りに適用できる曲になっている。また歌詞の主語も亡くなった側/残された側どちらにとることもできる。だからこそ…この解釈に余白が持たされていたからこそ、死と向き合う導入歌としては最適だったのだと、時間が経った今考えている。*1

 

先日父方の祖母が亡くなり、祖父母四人全員が旅立った。何度立ち会っても、棺桶に花を入れる時と焼かれる前にお別れする時は慣れなくて涙が出るし寂しいもんは寂しい。次の葬式は親(かそのきょうだい)が死ぬときで、とても耐えられる悲しさではないだろうけれど、今から数十年をかけて覚悟を決めて準備をしていかないといけないんだろうなあと思い直す。私はこれからもこのさきも一人っ子で、パートナーをもたずひとりで生きていくのだろうから。

また明日、普段住む街に戻るとき、私はこの曲を聴きながら帰る。聴くことで亡くなった者への気持ちを整理する。そして遠い未来であってほしいが、親が亡くなるときも同じようにこの曲を聴きながら段々と気持ちを整理するのだと思う。その時は自分の支えになるものがより多くあるように、一日一日を必死になったり休んだりしながら重ねていこうと思う。そのくらいしかできないけれど、きっとそれが生きるということなのだろう。

*1:実を言うと『グッドバイ』との出会いはもう少し前で、NHKスペシャル「NEXT WORLD 私たちの未来」で流れていたREMIX版だったと後から気づいた。こちらは非常に近未来間のある音作りがされているので、死の悲しみというよりは未来への創造を感じられる曲調になっている。そのため初めて聞いたときはこの曲から死や離別のにおいはかんじておらず、旅立ちとか区切りの印象を強く受けた。Good-bye (NEXT WORLD Remix) - YouTube